KABANEGOのブログ

日常の出来事を書いて行きます

小説を書く

今週のお題「〇〇からの卒業」

これからは不定期的に小説を書いていこうと思います。ちょっと趣旨とは離れますが、卒業の時期の小説を書きました。

 

「波の狭間に桜舞う」

なんだか心に靄がかかる日だった。とてもじゃないが、一人で終わらせられる量ではない仕事を押し付けられ頭と体がバラバラになった。突然だった。会社を飛び出してしまった。高層ビルが、ちっぽけな自分を押し潰してきそうな不安で覆い尽くす。最近は余裕がなく友達や家族、そして彼女のさくらにまで冷たくしてしまっている。さくらは同期で会社でも1目置かれる仕事でも美貌でも存在だった。必死にアプローチを繰り返しやっとの事で手に入れた高嶺の花。このままでは、もう駄目だろう。もういいんだ。一緒にいても、迷惑をかけるだけ、もっとふさわしい人がいるんだ。

わけも分からず、フラフラ歩いていたら、雨が降っていた。全部洗い流して欲しかった。雨に打たれるのは心地よかった。折角咲いた満開の桜並木も雨に打たれて、一斉に床一面を埋め尽くす。その桜の絨毯にのってどこまでも行こう。どこまで歩いたのだろう。その先には古びたバス停があった。バスが来たのでふいに乗った。眠気に襲われいつの間にか、終点まで寝てしまっていたようだ。

目の前には海があった。雨は止み、暑いくらいの太陽が温かかった。突然に肩を掴まれた。「なんだ、おめ、ビショビショだな。風邪引いちまうぞ。おらいの服着るか?」と声がした。振り返ると腰の曲がったおじいさんが細い目をして微笑んでいた。おじいさんの家では7匹の猫がお出迎えされた。スリスリと身体を擦って来る、歓迎されているかな。「じいちゃーん、これみてよ。凄いでしょ」4歳くらいの小さい子供がLEGOで作ったクルマを持って飛び出してきた。俺に気づくと「こんちは。汚い家だけど、あがって。」と頭を下げてきた。すると、奥から「まさる、片付けなさい。あ、お客さん来てたの?すみません。ってあら、濡れてらっしゃる。今タオル持ってきますね。」と小さい子の母親と思われる人がタオルをくれた。中にお邪魔させていただくと、おじいさんによく似たおばあさんが「ゆっくりしていかせ。」と微笑みかけてきた。ちらっと奥に部屋見えたガリ勉風な17歳くらいの青年が必死に勉強をしていた。俺にもあんな時があったなと懐かしい。すると、ガラガラと騒がしい音で3人の小学生が「ただいまー」入ってきた。おじいさんは「3つ子なんだけんじょいつもうるさくてきにしねーでけろ。」お茶をもらい、色んな話をした。その間にもひっきりなしに近所の人が遊びに来て騒がしかった。都会の喧騒とは違う騒がしさ。人の温かさに触れ、悩みなどどうでも良くなった。明日会社で謝ろう。そして辛い時は辛いと言おうと思った。「本当にありがとうございました。服今度お返しに参ります。」といい、家を出た。最後まで、皆で手を振ってくれて、少し涙が滲んだ。

海を見て帰ろう。すっかり夕方だった。海を浮かぶ桜の花びらが綺麗で手に取ろうと近づいた。すると、ガシッと肩を掴まれた。「早まらないで。」振り返ると、さくらがいた。「えっ。つけてきたのか。って、ただ綺麗で拾おうとしただけで。」

ただただ綻んださくらが滲んでいった。

 


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